8.

   流れていく不安が空気の流れすら重くする。小夜は今日の追跡が徒労に終わったことにじっとりとした疲れを感じていた。あの時に聞こえてきた『歌』の作用でついに翼手化した者が出たのである。もう一刻の猶予もならなかった。完全なるディーヴァの『歌』。なぜ発生したのか、どこから響いているのかわからぬまま、その呪われた歌は人々の眠っていた第五塩基を覚醒させる要因となるだろう。
「もしも本人の人間としての意識が無くなっていたとしても、ディーヴァの歌が流れているところに必ず翼手は現れます」
   そして翼手化した者は人間の生き血を求めるようになる。それからでは遅いのだ。既に犠牲者が一人出ている。
「やっぱり『歌』を見つけることが先決なんだね」
   少女の言葉は暗く沈んでいた。もう一度、あの歌が流れさえすればすべてがわかるだろうに。
「今度こそ、逃がさない」
   少女の瞳に赤色が混じり始めた。出現した翼手が一体だけとは限らない。まずは彼らの変化を司る『歌』を抑えることこそが肝心だった。こういうときには『赤い盾』の情報収集能力が懐かしくなる。だがディーヴァとの決着がついた今、彼らの力に依存することにはためらいがあった。ただ少女の神経だけが張り詰められていく。
   その肩が怒りと焦りに震えていた。頑なさをまとった小さな肩には他の者を排除する硬さがあった。しかし青年がいたわるように震える肩を押さえて宿の方へといざなうと、黙ったままそれでも素直に少女は従う。青年のその腕を少女は自分が意識している以上に深く信頼していた。寄せられる無条件の信頼は、青年の心にもやさしい穏やかさを連れてくる。
   だが一方、少女が30年前までと同じぴりぴりしたものをまとい始めているのを青年は見ているしかなかった。焦燥感が少女の胸を食い荒らし、瞳に抜き身の鋭さをもたらす。自分自身が剣となって翼手を滅ぼしつくそうとしていたあの日々が甦り、少女を内側から侵食していく。それでも何の手がかりもないままではどうしようもなかった。既に翼手は退散した。今日再び現れる可能性は低く、次の出現に対応するためにも体力は温存しておいた方が良策だということは少女にもわかっている。だがそれでも、何かできることがあるのではないか。何か見落としているのでは。そんな不安と焦りは追い詰めるように少女に迫る。
   不意に青年の腕が上がって少女の頬をかすめるように触れた。
「焦らないで」 いつもの深い声がささやく。すべてを包み込むようなやさしさに少女の瞳がわずかに歪んだ。
「焦っても何にもなりません」
「わかっている」
   自分でもわからない感情にわずかに声が硬くなるのを意識する。やさしさに落ち込みたくなかった。自分を甘やかしたくない。こんな風に翼手が出現している今このときには。受け取りたいのに受け取れない、そんなジレンマが少女を支配している。そのやさしさが嬉しいことは確かなのに。こんな言い方で、ハジの目が気遣わしげに細められるその様子もわかっているのに。30年前とは違う想いに涙が出てくる。
――だがそのとき、不意に彼女の頭によぎったものがあった。
「あの『歌』」
   初老の男の温かな眼差しを小夜は思い出していた。ハジとは違うやさしさを持った、ディーヴァの歌に魅せられて探しているという人。未完成の『歌』の作り手。何も知らないと言っていたが、ディーヴァの歌に似た音楽を創りだそうとしているあの人によって、もしもディーヴァの歌に共鳴するような『歌』が作り出されたとしたら。いや、もう既にあの歌は小夜たちのような第五塩基の持ち主に、ディーヴァの歌に似ていると判断できる程度にはなっているのだ。
「あの人の『歌』を止めなくちゃ。もう一度、あの人に逢わなくては」
「小夜?」
「ハジ。もしもあの人の『歌』が完成してニューヨークに流れたら?」
   本物のディーヴァの歌と、まがい物のディーヴァの歌。そこに何が起こるか、不測の事態が引き起こされることが一番怖い。 ディーヴァの歌のように人間を翼手にする力はないかもしれないが、もしも翼手がそれに集まるようなことになったなら。
   青年の眉がわずかにひそめられた。
「説得するつもりですか――」
「機材を壊したとしてもきっとまたあの人はあの『歌』を造ろうとする。本当のディーヴァの歌が流れて翼手が出現した今、あの人のしていることは危険なことなんだよ」
「すんなり信じてもらえるとは限りません」
「でも、あの人なら」
   小夜にとってあの男はどこかが沖縄の父を思い起こさせた。翼手である小夜の何もかも知っていながら、娘として受け入れてくれたあの父親に。――青年の沈黙が少女に落ちる。少女が『歌』を探していることを知っていながら、男は自分がディーヴァの歌に似たものを作り上げようとしていること黙っていたのだ。
「ハジ。私、信じたい。信じてみたい」 30年前、生きたいと言った同じ口調で少女は言った。そうなれば青年には何も言えなくなるとわからぬままに。
「あの人は私にもう一度来て欲しいって言った。準備をしておくからって」
   自分を見つめる青年の強い視線を感じながら、しかし少女は目を背けず逆にまっすぐに見つめ返した。
「それってきっと私たちにあの『歌』を聞かせてくれようとしたんだと思う。だから、信じられる」
   それだって憶測でしかないのかもしれない。甘いと言われても仕方がない。でも信じてみたかった。それは人間を信じて生きてみたいと言ったときと同じ、少女にとって切ないまでの本質的な願いでもあった。
   青年の蒼い目が少女の視線を受けて決意を返す。
「わかりました」




   小夜が再び男のところを尋ねたのは翌朝だった。アパルトマンの部屋は扉が変わっており、一瞬小夜は部屋を間違えたのかと思ってしまった。そこには元々あったどっしりした深緑の木製の扉の代わりに急ごしらえの鉄製のドアが取り付けられ、グルグルと鎖で締め付けられていたのだ。自分たちがあの『歌』が収められている機材を壊す目的で、この部屋へ侵入したことを思い出して少女は思わずうろたえる。
   もう一度大きく息を吐いた後、小夜は扉を叩いてみた。金属の籠もった響きが鐘の音のように廊下を流れる。その音が大きすぎて少女は息を呑んだが意を決して再び強く扉をたたく。
   最初はもしかして不在なのかもしれないと思うほど中からは物音一つしてこなかった。何度か扉を叩いてから少女が踵を返そうかと思案し始めた頃、向こう側から人の気配がしてようやく扉が開かれた。
「ああ、良かった。やっと来たね」
   男の顔色を見て小夜は息を呑んだ。男はまったく眠っていないように顔を青黒く染め、目の下に煙のような隈を浮かせて少女を見下ろしている。憔悴しきった様子とは裏腹に、男はいくぶんほっとした笑顔を向けてきた。
「約束の日に来なかったんで何かあったのかと思ったよ」
「あ・・・・ごめんなさい・・・・」
   何も言わないまま、すでにあの日から二日が過ぎていた。約束を破ったのにと言われも仕方がない状況に、彼はにっこり笑った。
「何か理由があったんだろう? 言いたくなければ別に言わなくてもいい。無事ならばそれでいいのさ。こっちもごたごたあったしね」
   そう言いながら彼は小夜とその後ろの青年を部屋の中へと招き入れた。
「あの・・・・」
「ああ、ドアか。強盗に入られたんだよ。荒らされた以外には被害は無かったんだが、どうにもこいつの方は取り替えなくちゃならなくなったというわけだ。まあそんなことで散らかっているが・・・・」
「大丈夫・・・・なんですか?」
   心配して覗き込んでくる少女の目。その中に子供のような無邪気さを見つけて彼はおおらかに微笑んだ。
「大丈夫。ごたごたあったっていうのは、実はこのことなんだ。昨日は警察が来たり業者を頼んだり、バタバタしていてね。まったく今日じゃなくて良かったよ」
「そうじゃなくて。――いえ、それもあるんですけれど・・・・」
   その騒動の原因が自分たちにあるとは言えず、まして謝ることもできずに少女は口ごもる。
「落ち着かないかもしれないが、こっちのことは心配しなさんな。こうして無事なのは確かなんだから。盗られたものもないし。もっともこの部屋には金目のものなんてありっこないがね」
   そう言われて入った部屋の中は、おざなりに片付けられたその中で、機材類だけがその肌を光らせてどっしりと腰を据えている。小夜にはそれがそれそのものの意思を持っているように思えて我知らず身を震わせた。
「さあ、そこにかけて」
「あの、でも――」
「まあ座って。三日欲しいって言ったのはね、あんたの『歌』を探すのに、少しでも手がかりになるものをと思って急いで素材に調整をかけていたからなのさ。俺が音楽を扱っていることは知っているだろう?」
   そう言いながら小夜のところから、大股に部屋を横切って機材の所にまで行くと彼はスイッチを入れて音質を微調整し始めた。
「なあ。あんたの探しているその『歌』と、俺の忘れられない『歌』とが同じものだったとしたら、面白いとは思わないかい?」
   男の言葉は心底楽しげだったが、その言葉を聞いたとたん小夜は一瞬真っ青になった。機材に向き合って準備していた彼は面白いどころではなく顔を引き攣らせた少女の様子にはまったく気がつかない。少女は唇を噛んだ。もしも同じものだったとしたら、自分はそれを二度とこの世に現れないように滅ぼさなくてはならないのだ。彼の作った『歌』は、ディーヴァのそれとは異なっていると判断したからこそ、確認と忠告のみを行いにやって来たというのに。
   まるで運命を突きつけられるように、突然事態が自分たちの前にあからさまになることがある。少女にはこの一連の厚意が何かの符号に思えてならなかった。
   少女の不安を感じ取って青年がいつの間にかそのすぐ傍らに歩み寄り、そっとその肩に手を置く。一度は機材を壊しに行ったというのに、いや恐らく一度は決意したからこそもう一度それをする事を考えるとこんなに動揺する。闘いが終わった後、自分が弱くなってしまったと少女は感じた。この義務は自分の生と共にいつも在るというのに。だが闘いが終わったからこそ、気がついたこともあった。
「俺の記憶を繋いで作ってみた。俺の中のあの『歌』だ」
   彼がスタートボタンを押すととたんに美しい旋律が流れ出した。誰の声なのか、何の音なのかわからなかったが、その音は遠くで響く潮騒を感じさせた。捉えどころの無い、だが胸をつかまれるような切ない響き。寄せては返す永遠の振動。技巧や流れるような美しさは本人(ディーヴァ)のものに遠く及ばず、調整されているとは言ってもところどころ音の一つ一つが寄せ集めで接いである様子がわかってしまう拙さはあったものの、それはディーヴァの歌の本質を的確に捉え、再現しているものだった。翼手の魂が共鳴している。第五塩基の共鳴と言ってもいい。ディーヴァの歌のように、こちらの意思を遥かに超えて引き出されるほどの力は持たず、だが確かに共鳴りはなされる。初めて聞いたときにはあんなに衝撃を覚えたものの、これ単体ならば危険なのかそうではないのか、小夜にも判断がつきかねた。それはその『歌』なりに大層美しいものだったのである。女王である小夜を魅了するほどの。
   しかし。今や本物のディーヴァの歌が出現してしまった。この事実によってこれは明らかに危険な『歌』となった。肩に置かれた青年の手の力がほんのわずかに強くなる。
   少女の隣に並んで立つ青年の姿を、男はかすかな憧憬と納得を持って眺めていた。青年は言葉を発することなく少女の傍らに立ち、無言で彼女を支えているように見える。いかなる言葉も必要としない交流。親兄妹でさえここまでできず、まして並みの恋人同士には及びもつかない関係のように見えた。青年の手の感触にいつしか少女の身体から緊張がほどけるように消え失せていた。ゆったりと音楽の中に身を浸している少女は満ち足りた表情をしている。
「どうだったね?」
   一通り、音楽が終わると男はスイッチを切り、少女の方を振り向いて訊いた。半分眼を瞑るようにして聞き入っていた少女の身体が再び緊張を取り戻してはっとなる。同時にその肩からさりげなく青年の手が離れた。
「あんたの探している『歌』はこれと同じものかね?」
   小夜は一瞬なんと応えていいのか迷ってしまった。否と言えばいいのか、頷と言えばいいのか。どちらも正しく、どちらも間違っている。
「・・・・わかり・・・・ません」
「わからない?」
   男には少女が非常にこの音楽に満足しているようにしか見えなかった。うっとりと聞きほれて。だからてっきり少女が探しているのがこれなのだと思ってしまったのだ。では一体彼女は何を求めているのか。
「旋律は・・・・同じだったと思います。あの『歌』と同じように美しくて、魅入られて・・・・。でも――」
   これは一つのせせらぎであって、奔流ではない。あの『歌』は様々な支流の集まった圧倒的な本流だった。抗うことの出来ないような。だがこれは単なる美しい『歌』であり、優しいささやきに過ぎなかった。少女の中ではこの二つはまったく異なったものとして捉えられている。
「ごめんなさい。やっぱり違う。私の記憶の中にある『歌』とは同じものとは言えません」
「だが旋律は同じと――」
「旋律は同じでも根っこの部分や表現の仕方が少し異なっているんです」
   揺さぶられ、そこから引き出される歓びの広がり方。ディーヴァの歌は誘惑の歌だった。身体の中、細胞の中、遺伝子の中、その構成要素を響かせる歌。人間を人間でないものに変えてしまうほどの。
   だがこの『歌』はやさしすぎる。
「でも違っていて良かった。本物のあの『歌』だったら私・・・・」
「本物の『歌』だったら?」
   さりげない男の誘導の言葉に小夜ははっとなった。
「本物の『歌』だったらどうしていたんだ? あんた達は一体何を探している? もしかして、探しているだけじゃなくて――」
「私・・・私は・・・・・」
   少女の視線がわずかにさ迷う。引き結ばれた唇の艶やかさが印象的だった。
「小夜・・・・」
   気遣わしげに青年が少女の名前を呼んだとき、少女が強い決意を秘めた目で男を見つめた。
「――お願いです。この『歌』をもう再生しないでください」
「なんだって!?」
   少女の言葉は唐突過ぎた。一瞬何を言われたのかわからない。この歌をあんなに安らいだ表情で聞いていたこの娘が。この歌を否定するような言葉を口にしている。
   男は首を振った。『歌』のことを聞きに来たときのことといい、この少女の言うことはいつも突飛で、彼を戸惑わせた。だが一方で、その少女の言うことを否定できない何かがそこにあった。それは少女の中の必死な何かであり、また彼自身に潜んでいる不安でもある。
「ごめんなさい・・・・」
   彼の顔を見ていられずに、一瞬小夜は目を伏せた。彼の『歌』。彼が自分のためにしてくれたこと、彼の人生、そして自分自身の存在。そのどれもが並び立たない。
「理由は?」 驚きの後、男は気を取り直したように訊いた。
「何か理由があるんだろう?」
   男の言葉に少女は再び男を見つめた。何秒か、逡巡するように考えをめぐらせてからゆっくりと口を開く。
「本物の『歌』だったらどうしていたかって訊きましたよね。
   私が――あの『歌』を探しているのは、探し出してそれを滅するためです」
「滅するって――」思わぬ少女からの激しい言葉に男は戸惑った。
「この『歌』は本来ならば二度と人前で流れてはいけない歌。美しい、呪われた歌・・・・」
   決意を込めて語る少女は先ほどよりも大人びて見え、それが少女の言葉に現実性をもたらしていた。だがそれでも男は信じられなかった。『歌』を語る少女の様子は悲しみを背負っていたとは言え、深い郷愁と憧れ、そして愛おしさに満ちたものだった。少女がその『歌』に対してどれだけ深い思いを抱いていたのか、彼には手に取るようにわかった。だからこそ少女に惹かれ、その願いのためにやれることをやってやろうという気にもなったのである。でなければ自分自身の秘かな宝を取り出して他人に見せようなどと、露ほども思わなかったことだろう。
「だから滅すると? それはおかしい」 思わずそう言った。
「音楽も、絵画も、およそ芸術というのは受け手次第だ。作品そのものにはなんの罪も無い」
「わかってます」 少女は赤みを帯びた褐色の目で男を見つめていた。
「そう言ってもらえて嬉しい。あの『歌』をそんな風に慈しんでもらって、どんなにどんなに嬉しいか。私にとってもあの『歌』は忘れられない大切な『歌』だったから」
「じゃあ、なんで――」
   少女の眉が苦しげにひそめられた。
「『獣化症候群』がどんなものか、知ってますか?」
   それは30年前、一時的に各地に広がった奇妙な病気だった。身体が突然奇怪な変異を遂げて、ほとんどの者はそのまま死に至る。ニューヨークが一時期一番被害が大きいとされていたこともあった。
「獣化症候群? まさか。あれはもう何十年も前の話になるぞ。あれから一件も――」
   だがそれは本当にそうなのだろうか。発表されていないだけで実際は秘かに出現しているのではないだろうか。
「あの『歌』はそれが発現する引き金となるんです」
   30年前に失われた歌。30年前に突然現れて、そしてそのままぱったりと無くなった「獣化症候群」。軍とかかわりを持っているといわれていた少女。獣化症候群の発生に、その少女の歌が関わっていたという噂を確かに彼も聞いたことがあるのだ。偶然を面白おかしく騒ぎ立てているだけだと思っていたが。
「あの『歌』に似ているあなたの『歌』も、何が起こるかわかりません。何か起こる前に、その前にどうか眠らせてあげて」
「ちょっと待ってくれ」
   男は混乱した頭を整理しようと務めた。
「その『歌』が危険なことはわかった。だが俺の歌はその『歌』とは違っているとあんたは言っただろう。第一俺はずっとあの『歌』を作りつづけ、聴き続けているのに何とも無いじゃないか」
「それでも、あなたの『歌』はあの『歌』に良く似てる。本当にもう少しで同じものと思ってしまうほど。だから・・・・」
   わかってくれるだろうという期待と、実際に説得することとは違う。男の『歌』に対する想いも知っていた少女は、次第に胸が詰まるほどの息苦しさを感じ始めていた。
   彼にとってこの『歌』は、もう一人の自分とも言えるような歌なのだ。そして彼の心の中にしっかりとしまいこまれているディーヴァの『歌』。その事実は小夜にとっても大切なものであり、一種の慰めでもあった。だが今はその慰めを自ら封じるようにしなければならない。
「少し・・・・考えさせてくれないか」
   ようやく男が絞り出すような声でそう言ったとき、少女は胸の奥がひどく痛むのを感じていた。こうして理解してくれる者からも封じられることしかできないディーヴァの『歌』が憐れでならなかった。
「小夜・・・・」
   青年の低い声が少女を促す。いつかと同じように黙ったまま青年が楽器のケースを担ぎ上げると少女も椅子から立ち上がった。いつの間にか夕方の気配が窓の隙間から茜色の光をまとって忍び寄っている。男は肩を落としたまま、二人の方を見ようとはしなかった。少女の中に痛みが走る。それでも明日を歩いていかなくてはならない。
「また・・・・来ます」
   最後に少女の言葉が虚しいばかりの空間に落ちた。









以下、続く。。。



2009.08.07(09.08.13改稿)

最後がヘタレました。
   30年後。そうそうすぐに小夜の性格や対応の仕方が変わるわけは無く。少しずつ少しずつ、変わっていくのだと思ってます。そしてぐらぐらと揺れながら、対応の仕方も行ったり来たりしながら、少しずつハジと新しい関係を築いていくのではないかなあ、とか。
   今回はオリキャラの扱いに苦労しました。そして、今回はアプしてから、かなり手を加えて修正しました。もちろん大筋は変更なしですが、言い方とかはかなり変えたかも。どの回よりも実はこの8話が一番むずかしい。。。。まだまだ改良の余地あり、な勢いです。。。

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